プッシュロッドが押す剥き出しのロッカーアームとスプリング。オイル差しを手にもち注油するのが、ガキの頃の私に課せられた役目だった。16になるとすぐに免許を取った。交番のお巡りさんの不動の古いOHVカブを手に入れた。大した工具もマニュアルがなくてもエンジンをバラし、ピストンリングを入替え、タペット調整をしただけでエンジンは目覚めた。私にとってのそのポンコツマシンは、それまでの自転車に較べタイムマシンだった。周囲に感ずかれない様、夜な夜な私はそのマシンでタイムスリップした。それ以来、バルブを持たない2ストロークは好きになれなかった。
やがて、DUCATIのデスモドローミックを知る事となる。その思想からすればバルブスプリングは一切必要ないはずなのにノンデスもと同様のスプリングが採用されていた。量産車としての商品としての安定を求められたのだろう。
タリオーニ技師はどう考えたのだろう。私はそのスプリングは必要ないと考えていた。思い切って、そのスプリングは組付けなかったが、クリアランスには十分注意を払った。心地良いレスポンス、確実に速くなった。これがデスモのデスモたる魅力だ。タリオーニ万才！だがこのリスクは自身のマシンであるから許されるのだ。ではどうする？私は同形状の、スタンダードよりばねレートの小さいスプリングを工場に発注した。結果はOK！ストリート･サーキット走行しても全く心配なく満足だった。勿論、車体にもこだわった。
そして今、モーターサイクルをどうしたら安全に、愉しく、ライダーの一人一人にどこまで適合させることが出来るのか。相反する要素の集合体であるマシンをどうしたら高次元に融合させられるのか、いつも思い悩み、夢見ています。
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